ROLE YOURSが提案する消費循環のSWITCH STANDARDとは
環境省の調査(令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務)では、国内の一般家庭から廃棄される服は約50万トン(リユースとリサイクルは除く)と推計され、そのほとんど全てが焼却または埋め立てで処理されています。また、ファッション産業は世界で第2位の汚染産業(国連貿易開発会議)とも言われる側面もあり、環境負荷が大きいことが世界的に問題視されています。
日々洋服を作り、皆さんの手にお届けしているオールユアーズも例外ではなく、ファッション業界の課題に対して創業期からコツコツと、できることから向き合ってきました。私たちはこの活動を“SWITCH STANDARD”と名付け、「服の始まりから終わりまで責任を持つこと」をテーマに事業を推進しています。
取り組みの全貌は「オールユアーズのスイッチスタンダード2022年版」をご覧ください。以下の記事を読んでから、この記事を読むとよりお楽しみいただけると思います。
https://allyours.jp/blogs/journal/switch-standard-2022-00
これまでオールユアーズは、自社製品の範囲内で、アパレル業界の課題に向き合ってきましたが、今後は世の中に存在する全ての洋服を対象に徐々に活動を拡張していきます。今回の記事では、2022年9月に立ち上げた、他社製品を新しい古着に作り替える「ROLE YOURS」が提案する消費循環のSWITCH STANDARDをご紹介します。「足さないをつくる」という一見理解し難い言葉を掲げるこのプロジェクトブランドの発起人であるふたり、ALL YOURS代表の原と、デザインスタジオROLE代表の羽田純さんの言葉も交えながら紐解いていきます。
綺麗な洋服を再資源化すべきなのか
まず初めにオールユアーズは、2021年11月から「環す」というプロジェクトで、一般家庭で不要になった自社製品と他社製品の回収を行ってきました。
環すとは・・・
「環す」はこれまでの選択肢に代わる、新しい選択肢です。 使い手を超えて、モノを長持ちさせる仕組みです。着られなくなった衣服をオールユアーズが回収し、まだ使えるものは次の活用方法につないでいきます。
オールユアーズ製品はメンテナンスを施し、サルベージ品として再販売を行います。
他社製品は、企業ユニフォームのボディとしての活用を試験的に始めており、新たな服へのリメイクやぞうきんなど布製品への加工などの活用方法も検討しています。寿命を全うしたものは、有機物分解処理を行うことで、陶磁器や衣類、セメントなど、次の製品の原材料として再生利用を可能にします。
服が捨てられる理由は過去にも語っていますが、根本の原因は、「服そのもの」の価値を超えて「みんなが着ている」という「流行」が服の価値の大半を占めることで、流行が終わった途端にその洋服は着られなくなり、捨てられてしまうことにあります。オールユアーズが回収した洋服のなかにも、まだまだ捨てるにはもったいない洋服がたくさんありました。
オールユアーズは流行ではなく、「服そのもの」の使い方に価値を感じてもらえるような服作りを行っていますが、上記のように服がたくさん捨てられている現状にも対処できればより良いですよね。
他社製品の回収を始めた背景はいくつかあるのですが、将来的にリサイクルコットンを含む再資源化をはかり、原材料を確保することも目的のひとつとして設定していました。しかし、回収した服を闇雲に再資源化することは、果たして最善の選択肢なのでしょうか?再資源化の過程でも環境負荷はもちろんありますし、リサイクルコットンで服を作ることにも同じく環境負荷がかかります。何より、まだ着られる洋服はまだ着てほしい。そこで、今現在世の中に存在する服を長く着られるようにすることがひとつの良い選択肢であると考えて方向性を模索しました。
綺麗な服が多いのならば古着として販売することが第一想起されますが、ファストファッション全盛期とも言われる現在では、二次流通の価値がほぼ存在しない服が多いこともまたひとつの問題です。そして、例え二次流通で回収した洋服が売れたとしても、その洋服は長く、大切に着てもらえるのでしょうか?
愛用服になる古着
ROLE YOURSの源泉となったのが、2018年1月にクラウドファンディングから始めた(現在は終了)セカンドライフというサービスです。
このサービスは、今持っているお気に入りの洋服を加工アップデートして、もっと便利に活用していくために考えたものでした。皆さんから洋服をお送りいただき、オールユアーズ製品にも使用している、撥水加工や抗菌加工を施してお戻しします。このサービスを「環す」で回収した洋服に転用することで、愛用服になり得る新しい古着を生み出せるのではないかと、まずはTシャツの製品開発に着手していました。
このTシャツの開発中に出会ったのがデザインスタジオROLEの羽田純さんです。きっかけは、羽田さんが関わる高岡クラフト市場街への出店に誘っていただいたこと。この出店においては、オールユアーズが自社で開発している製品ではなく、このTシャツが合うのではないかと企画を持ち込みました。
当時を振り返り、羽田さんは「大量に回収したTシャツをあと加工で抗菌ができると言われました。そのあと加工を施したTシャツに、デザインをしてもらえませんか?って言われて・・・
僕はその話を聞いた時点で、古着に後加工することがものすごく面白いと思いました。このような循環のやりかたって聞いたことないですよね。古着をフリマアプリやオークションで売買することは一般的になっていますが、わざわざ加工を施している古着って聞いたことがない。
加工が一番面白いポイントで、そこに僕のデザインを乗せるなんて面白くないと思い、自分もそれに負けないアイディアを出したいと考えました。そこで、機能性だけを突き詰めた服を一緒に作るのはどうですか?と提案しました。」と話してくれました。
「服の常識」をひっくり返す服
羽田さんのアイデアを掛け合わせ、ROLE YOURSのプロダクト第一弾として生まれたのが、このTシャツたちです。
今回のテーマは、『肌あたりをよくする』デザインと『臭いがつかない』機能の2つです。
赤ちゃん服の構造から着想を得て、工夫を施しました。着心地の良さをサポートするために「服の表裏をひっくり返し、縫い目を外側に」することで、肌あたりを滑らかにしています。
また多種多様な機能を有した新品の服は、いまやスタンダードになりつつありますが、古着への機能性の付加はこれまでに前例が多くありません。今回の製品では、原材料である古着に対して、「あと加工」で抗菌・防臭機能を付加しました。
このTシャツが誕生した背景について羽田さんは、「企画する上で1つ目の問題は、古着のTシャツのほとんどにデザイン(プリント)が入っていることです。話が少し変わりまして、僕には子どもが3人居て、赤ちゃんの服をずっと見てきているんです。そういえば、赤ちゃんの服って実は縫い目が外側にあるよなと思い、寝間着のT シャツを裏返して着てみると、とても気持ちよかったんです。僕はこれも機能の1つだと思っていて、なおかつ裏返しというのがブランドの分かりやすい目印にもなります。「服裏返すのどうですか?」って提案したら、原さんが とても興奮してしまって(笑)
そして、裏返したTシャツにロゴマークを入れることで、モノとして完成する。この2つを今回の企画では入れてみました。」と振り返ってくれました。
ご紹介したTシャツを含むROLE YOURSの製品は、新たに作っているようで作っていない、世の中にものを足さないで作ります。これをプラスゼロと題し、ロゴで表現しました。プラスゼロ「+0」をひっくり返すと古着の「古」になる遊び心を込めたロゴです。
原は羽田さんのアイデアについて「アパレル業界は、意外と固定概念の塊だと思っています。ファッションは、自由なイメージがあると思いますが、ものづくり側はそうではないと思うことが多々あります。『この洋服はこうでなければならない』『これこそが本物だ!』という決まった型を多くの人が踏襲しています。
ジーンズで例えると、リーバイスのこの形がジーンズの本物というイメージが共通認識として出来上がっています。共通認識となる製品を作ったブランドは、もちろん凄いのですが、そのリーバイスのジーンズを作った人は常識を打ち破って作っているはずです。リーバイスのジーンズは労働者のために作られましたが、当時の労働者にとって最適なズボンを作るために、常識をひっくり返して作っています。働く人たちのために新しいスタンダードをつくったのがあの形。
Tシャツも同じ話で、僕らが日頃着ているTシャツの形が当たり前になっていますが、片やベビー用Tシャツに視点を移すと縫い目がひっくり返っていることが当たり前になっています。なので、ROLE YOURSは、ものづくりの成り立ち自体もひっくり返していると思いますし、アパレル業界とかファッション業界の中だけにいるとこのアイデアはおそらく出てきません。」とのこと。
常識をひっくり返したTシャツは、店舗での体験も少し変わり、写真のようにTシャツの裏面を楽しそうに覗く光景をたくさん見ることができました。
プラスゼロを服以外にも拡張させる
ROLE YOURSのコンセプトである足さないで作る(プラスゼロ)は、服以外のカテゴリでもその真価を発揮するポテンシャルがあるのではないかとわくわくしています。
例えばROLE YOURSでは、羽田さんのアイデアでポスターや店内POPなど紙で作るあらゆるものを「ヤレ紙(印刷の工程上、どうしても出てしまう廃棄前提の紙)」で作りました。
廃棄されてしまうはずだった紙を白で塗りつぶし、上から印刷していますが、元々刷られていた別の印刷が入っているのでテクスチャーとして面白い上に、ほぼ全てのデザインが異なることも魅力です。
最後に、ROLE YOURSは消費循環を無理矢理変えたいわけではありません。良いものを作ること、楽しめることを考え、無理なくアクションを続けるための一つの手段です。プラスゼロの輪を広げるSWITCH STANDARDはまだ始まったばかりですが、一緒にできることがあればご連絡ください!
今回のプロジェクトの発起人である、ROLE羽田さんとALLYOURS原が語るROLE YOURSについて語っております動画全編はこちらからご覧いただけます。
【告知番組】これから市場まち【市場街2022】
羽田 純(ROLE/)
1984年大阪出身。ギャラリーのキュレーションを8年間担当した後、2015年、富山県高岡市に事務所を開設。JAGDA、TOYAMA ADC、高岡伝統産に所属。
【受 賞】
TOYAMA ADCグランプリ/とやまクリエーター大賞/富山県デザイン展 大賞/ゴールデン ピン デザインアワード ベストオブデザイン賞(台湾)/東京TDC入選/JAGDA新人賞ノミネート 他
【近年の主なクライアント(50音順)】
北日本新聞社/サントリー美術館/高岡市/富山県/ディスカバージャパン/富山県水墨美術館/北陸博報堂/中尾清月堂(和菓子)/らーめん玉/ReBITA/ほか
ROLEのホームページはこちら https://www.role.ne.jp
編集/ライティング:清野