キーワードは「オルタナティブ」と「虚構」。龍崎 翔子氏が見つめる “SWITCH STANDARD” な姿とは

キーワードは「オルタナティブ」と「虚構」。龍崎 翔子氏が見つめる “SWITCH STANDARD” な姿とは

わたしたちALL YOURSが、2020年春よりスタートした新プロジェクト『スイッチスタンダードプロジェクト(SWITCH STANDARD Project)』。


「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもと、これまで幾多もの「あたりまえ」を更新すべく活動してきました。

ここでは、そんなわたしたちALL YOURSの、いわば “同志” とも呼べる方々をご紹介。きっと、志を同じくしてさえいれば、ブランドそれぞれがやっていることは違えど、同じ方を向いていることに違いない。そんな願いを込めつつ、ALL YOURS代表・木村 まさしとの対談形式で、さまざまな「人」や「ブランド」に取材をおこなっていきます。


第一弾を飾ったSHIBUYA CITY FCの小泉さんに引き続き、第二弾に登場するのは、『
HOTEL SHE, KYOTO』や『HOTEL SHE, OSAKA』の運営をはじめ、空間プロデュースや地域ブランディング、メディア『HOTEL SOMEWHERE』の運営など、幅広い分野でのクリエイティブを通じて “新たな選択肢” を提示し続ける『L&Gグローバルビジネス』の代表取締役・龍崎 翔子氏。


“常に目指しているのは、「オルタナティブ」なんですよね” と話す彼女の、ビジネスの真髄、ひいては “SWITCH STANDARD” なアティチュードに触れてみましょう。

壊れたいわけじゃないし、壊したいものもない。
だからと言ってすべてに満足してるわけじゃない

木村 まさし(以下、木村):よろしくお願いします! 僕、個人的に『HOTEL SHE,』が本当に大好きで。こうしてお仕事で一緒になれたことをすごく幸せに感じています。

龍崎 翔子(以下、龍崎さん):私も、とってもうれしいです。いろんな話ができたら良いなぁと、ずっと楽しみでした。


木村:では最初に、そもそも龍崎さんが『HOTEL SHE,』の運営を志したきっかけや理由の部分から。


龍崎さん:きっぱり言えば、“選択肢” を増やしたかったんですよね。


木村:選択肢、ですか。

龍崎さん:アパレルには、選択できる項目がたくさんあると思うんです。それは「主体性をともなった選択」という意味で。今日はこれを着たい気分だ、スカートかな、パンツかな、じゃあ足元は………と、数多ある変数を定義して、気分やTPOによって変えることができる。でも、こと「日本のホテル」においては、それが無いと思ったんですよね。


木村:ほうほう。

龍崎さん:特に5年前、2016年頃には、まったくと言って良いほどなかったんです。宿泊といえば、シティホテルかビジネスホテルかの二択ぐらい。加えてその両方が、「スタンダードであること」を美としていたし、確かな商品基準でもあったんですよね。

木村:うんうん。普通であること、というか。

龍崎さん:それぞれ、評価軸が明確にあったんですよ。「三つ星」や「四つ星」のような基準が。それは「朝食の種類」だったり「お風呂が天然温泉なのかそうでないのか」だったり。ただ、こう、それってちょっとズレてるよね?? と思ってしまったんですよね。


木村:ズレ、かぁ。


龍崎さん:私が泊まるとすれば、正直、朝食の種類が多ければ多いほどうれしい、なんてことは別に思わない。天然温泉はうれしいけど、そうでなくても構わない。そこで思ったのが「“選択肢”が無いんだよなぁ」ということだったんですよね。それらを必要としない人にとっては、やさしくないんですよ。


木村:なんとなくだけれど、ホテルの設計って、いわば “男性的” だと思うんですよね。


龍崎さん:あー、わかる。すっごくわかります。

木村:大浴場はあっても、女性風呂がなかったり。差別とはまた違う話なのだろうけど、こう、「ビジネスマン」の域が「男性」をどうしても超えないような気がしていて。“選択肢” がない、というのにはすごく共感します。


龍崎さん:私はそれを「壊したい」とは思わないんですよね。別に、壊す必要はないと思う。ただ、他の “選択肢” を創り出すことは、絶対に必要だと思った。だってつまんないんですもん。満足していないんです。少なくとも私が。「だったらもう作っちゃおう!」って。それが『HOTEL SHE,』を作ったきっかけですね。

「みんなが喜ぶ」よりも、「私とおなじ想いを持った人が喜ぶ」を目指すこと

木村:「選択肢を増やす」ということって、きっとまさに「オルタナティブ」ですよね。『HOTEL SHE,』や、龍崎さんからは、すごくそのことを思わされるんだよな。

龍崎さん:すごくうれしいですね。私たちは、それこそまさに「オルタナティブ」を目指していて。アメリカに住んでいた頃のことを思い出します。毎日モーテルに泊まっていたんですが、ある時、親が『ヒルトンが取れたよ!』と言ったんですね。『良いホテルが取れたわ!』って。でも、私としては全然うれしくなかった。「またかよ……」って感じで。テキサスにいても、ロサンゼルスにいても、またヒルトン。またまたヒルトン。ずっと “画一的” だったんです。


木村:あー、なるほど。


龍崎さん:そんな当時、たまたまラスベガスへ行ったんですよ。そしたら、『Circus Circus(サーカス・サーカス)​​』というホテルがあって。その名の通り、サーカスをテーマにしたホテルなんです。また別の場所には、ものすごく大きな庭園に50羽ものフラミンゴがいる『The Flamingo Las Vegas(ザ・フラミンゴ・ラスベガス)』というホテルがあったり。


木村:すごいコンセプトだ……(笑)。

龍崎さん:当時思ったのは「いや、ホテルも個性出せるじゃん!」ということでしたね。私たちの『HOTEL SHE,』は、それらに影響を受けたわけではないのですが、ホテルにも個性があって良いんだ、と幼い頃に気づけたのは大きかったです。

木村:ALL YOURSも、同じなんです。それは、音楽が大好きだったから。チャートには上がってこないけれど、めちゃくちゃかっこいい人たちがいる。やっぱり、そういう人たちに影響を受けてきたんですよね。たとえば、『HOTEL SHE,』として「お客さんに影響を与えたい」という気持ちはあったりしますか?


龍崎さん:それは一切ないですね。影響したくない。ユーザーにこうなってほしい、こう感じてほしい、という気持ちは一切ありません。ユーザーに喜んでもらうためのものを作る、ということもない。私は、自分が欲しいから作ってるんですよ。

木村:いや、めちゃくちゃわかるなぁ。龍崎さんたちが運営している、北海道の『HOTEL KUMOI』にも泊まったことがあって。今日はここ『HOTEL SHE, KYOTO』に泊まったわけだけど、それぞれに “作品感” があるんだよなぁ、と思う。簡単な言葉だけど、個性がしっかりある、というか。


龍崎さん:自分のことは、普遍的な人間だと思っているんですよ。だから、私が「欲しい」と思ったなら、きっと、それを欲しいと思う方は数十万人ぐらいはいるだろう、って。だからこそ、自分の「欲しい!」や「泊まりたい!」といった気持ちに対してどれほど忠実にいられるか、というのを意識していますね。それが “作品” たらしめるのかも。


木村:いやー、かっこいい。そうなんだよな。ALL YOURSも、それにすごく似てる。お客さんを頭に浮かべながら「あの人にはこんな服が似合うだろうな……」と思いながら服を作ってるし、極論、自分たちが着たいものしか作りたくないんだよ。

龍崎さん:その気持ち、すっごくわかります。持論だけど、自分にとってはその方がやりやすいんですよね。顔がよく見えない人を喜ばせるのって、すごく難しいし、驕りが出てしまうと思う。「あなたたち、こういうの好きでしょ?」みたいな感じが。「女子はピンク好きでしょ?」みたいな。「昭和レトロとか好きっしょ?」みたいな。自分がターゲットであって当事者じゃないと、きっとそういう気持ちになってしまう。私はそれが怖いんです。

“私たちが作っているのって、「虚構」なんですよ”

木村:ところで、僕が体験してきた『HOTEL KUMOI』と『HOTEL SHE, KYOTO』の両方に漂う「全然違うのに、なぜか同じ会社が運営している気がする」って、一体何なんだろうなぁ。なんか、同じ匂いがするんだよね。

龍崎さん:ユートピアなんですよね、私たちのホテルって。全部。


木村:ユートピア、かぁ。理想郷。無何有郷。架空、なのか。それは、現実が辛いからこそ立ち上げたようなイメージ?


龍崎さん:「辛い」というよりも、つまんなかったんです。平和で、退屈だった。アメリカをドライブしていた幼い頃も、退屈だったんです。退屈していたからこそ、ホテルが楽しみだったんですよね。暮らしのなかで生まれた「満たされない心」を、ホテルの存在が癒してくれていたように思えるんです。


木村:うんうん。


龍崎さん:それは「虚構」と言い換えることもできるはず。だって、無いものなんですもん。暮らしにおいて、いわば
“なくても成立するもの” としてのホテル、なんですよね。


木村:あー、なるほど。

龍崎さん:だからこそ、私たちのホテルは「虚構」であるべきだと思っているし、そうありたいと願う心もあるんですよ。本来はなくても良いものがしっかりと作り込まれていることにこそ、私は美しさを覚えるんですよね。たとえば、沖縄が再現するアメリカのような雰囲気。馬鹿にするわけではないけれど、「あえてのウソっぽさ」というか。ユートピア性、というか。


木村:味として愛せる、みたいな。


龍崎さん:まさに! リアルではなく、リアリティ。でも、リアル。表層だけの「リアル」じゃないし、取ってつけたようなリアリティでもない。「世界観」なんですよね。世界観って、常に「ウソ」なんですよ。オルタナティブな世界をあえて生み出すからこそ、意味があるというか。


木村:それをとことん全力で追い求めて、形にするからこそ、『HOTEL SHE,』には一体感があるのかなぁと思う。


龍崎さん:うんうん。ユーザーの方々と一緒に「虚構」で遊んでいたい、インターネットの蜃気楼に浮かぶユートピアとして、ずっとありたいなぁと感じています。


木村:いやー、本当にかっこいい。ウソっぽく聞こえてしまうけど、これは「虚構」じゃなく、心からすごくかっこいいと感じました。話を聞けてすごく楽しかった。ありがとうございました!

ALL YOURS × HOTEL SHE, KYOTO コラボTシャツ発売中

【お気に入りのアイテム紹介!】

わたせせいぞう著 『ハートカクテル』

“日本のイラストレーター・わたせせいぞうによる代表作『ハートカクテル』です。このマンガは、まさに「ユートピア的」だなぁと思います。内容がほとんど無いんですよ。キャラクターの表情もほぼ無くて。それに、日常なんだけど、日常じゃない。描かれている場所も、日本ではないんだけど、カリフォルニアかと言われるとそうでもない。そんなアンビバレンツが、虚構的で大好きですね”

 

「虚構」や「オルタナティブ」をテーマに、自らが手がけるホテルについて語ってくださった龍崎さん。お話を聞いている間は、木村さんに同じく著者のわたしも、とにかくうなずいてばかりの時間でした。そんな龍崎さんが選ぶ『ハートカクテル』には、彼女の思想や哲学がたっぷり含まれているような気がします。

ライター:三浦 希

1993年2月26日生まれ、北海道出身。WEB制作会社、編集プロダクション、ECサイトディレクターを経て、2020年4月に独立。ライター・編集者として活動する。地方で昔から営業している古い居酒屋で、おじいちゃんおばあちゃんと友達になるのが好き。

フォトグラファー:Kotoku Shinichi

広島出身。現在は、関西を拠点に音楽ライブ、トークイベント、アパレル等の撮影で活動する。

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