多様化する大学の役割の中で「追究」の方法を更新する意味とは

多様化する大学の役割の中で「追究」の方法を更新する意味とは

これまでオールユアーズは、「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもと、アパレル業界の「あたりまえ」を更新するSWITCH STANDARDを行ってきました。

きっと、私たち以外にも様々な業界で「あたりまえ」にチャレンジする方々がいるはず。

今回は、近畿大学経営学部で教授を務める山縣正幸先生にインタビューを行いました。現代では、大学に通うことが一般化しましたが、そもそも大学とはどのような場所なのでしょうか?教育の現場は普遍的な印象ですが、山縣先生とお話ししていると、大学も徐々にSWITCH STANDARDに挑戦していることが分かりました。研究機関としての役割、社会へのステップとしての役割の狭間で、「大学での研究を通じて、社会人に必要な抽象化と具体化を行ったり来たりすることをトレーニングすることが一つの役割」と山縣先生は話します。山縣ゼミが中小企業とともに特徴的な産学連携プロジェクトを推進する理由もここにありました。

山縣 正幸(やまがた まさゆき)

1976年生まれ。福岡県大牟田市生まれ、奈良から大阪(北摂)で育つ。関西学院大学大学院商学研究科を経て、現在は近畿大学経営学部教授。もともと、文学に強い関心を持っていたが、運命のいたずらで経営学者に。専門は経営学史、最近はサービスデザインなど、デザインという考え方にもとづく経営活動の解明や、アントレプレナーシップと想像力の関係などにも関心を持っている。能を観るのが大好き。

現代における大学とは

ーまず、ご自身の活動について教えてください。

近畿大学経営学部で教授を務めています。一コマ90分の授業をいくつか受け持ち、受講生は300名ほどです。加えて、3年生と4年生を対象としたゼミナールも行っています。もちろん大学教授なので、研究や論文執筆も行っています。領域は経営学で、中でもドイツの経営に関する歴史を振り返りながら紐解いていくことが専門です。

また学外の活動として、国立能楽堂の解説パンフレットの連載を持っていたり、大阪府八尾市で行っている産業振興会議の座長を務めたりしています。

 

ー経営学と聞くと、ざっくりとしたイメージなのですが、具体的にどのような学問なのでしょうか?

おっしゃる通り、企業や組織がやっていることなので、なんでもありという側面はあります。お金や経済、組織構築、コミュニケーションあるいは開発や技術などもテーマに含みます。よって、経営学への解釈は人によって多種多様なことがほとんどではないでしょうか。逆に経営学という学問を強引に定義すると、その瞬間に抜け落ちていくことがたくさんありますので、私は経営学を厳密に定義しないようにしています。ただその中でも、私が研究してきたドイツ語圏の議論で好きな考え方があります。その議論の中では、経済には大きく分けて二つの柱がある。一つ目は価値の流れ、お金がどう動いていくのか?という話です。すなわち調達して精算するまでの流れ、もう少し突っ込むと価値の提案のしかたや購買意欲などバリューチェーンにまつわる全ての要素を含みます。もう一つは、協働、協力して働くという組織に関する話です。この2つの柱に加えて、パーパス(目的)、そして技術を加えた4つのテーマを経営学の領域と捉えて問題がないと私は考えています。

 

ーそもそも大学は何をする場所で、現在の大学はどのような場所でどのような役割を担っているのでしょうか?

伝統的な発想では、研究を行う場所です。研究というのはさまざまな現象を、これまでの知見に照らし合わせながら、アップデートしていく営みです。そこで積み重ねられるのが、知識なわけです。それがすぐに役立つのかは、一旦置いておき、知識が蓄積される空間であることが今でも昔でも重要な要素だと私は考えています。

一方で、今の大学に入学する学生は多様です。大学は研究する場所という認識をもって入学してくる学生もいますし、就職のための最終学歴と考えて入学してくる学生もいます。もっというと、「とりあえず大学」という学生もいます。その意味で、大学という存在への伝統的な捉え方はもちろん重要ですが、それだけで運営していくのが難しいのも事実です。私自身が勤めている大学でも、文系(より具体的には、経済学部や経営学部、法学部などの社会科学系学部)の学部生のほとんどは、研究者を志してはいません。それがいいのかどうかはひとまず置くとしても、その現実を無視できないわけです。でも、研究をする場としての大学というところは、やはり重要です。その結果、大学側としては研究者を志す学部生への門は開きながら、就職をする学部生へも最適化することが必要となるわけです。具体的には、大学での研究を通じて、社会人に必要な抽象化と具体化を行ったり来たりすることをトレーニングすること、ここに大学としての大事な役割があると考えています。これは研究者であっても、実践者であっても、どちらにも欠かせないことですので。

深い学びを得るために実社会で実践する

オールユアーズさんとお取り組みをしている産学連携プロジェクトもこのような考え方から始めたんです。

経営学だけではないですが、いわゆる理論というのは現実に起こっている実践事象を抽象化して、整え直したものです。となると、就業経験のない多くの学部生にとっては、経営学の理論を提示されても、いきなりそれを現実のものとしてイメージするのは難しかったりします。かといって、理論に意味がないわけではありません。だからこそ、理論を学びつつ、実践的な経験をも重ねることで、理論を体感的に理解できたり、あるいは理論と現実のズレを体験することで、なぜそこにズレがあるのかを考えたりできます。そのズレをこそ楽しんでほしいですし、実際、そのズレこそが社会のリアルですよね。

だからこそというか、実践的経験を自分のなかで整理するためにも、古典的な研究をじっくりやるということも大事にしたいと考えています。どうしても、大学も世の中の動向に即して動いていくわけですが、一方で新しいことを生み出していくためには、かえって古典が重要な手がかりをもたらしてくれることもあります。そう考えると、「○○学部はもう古い、意味がない」とか言われることもありますが、それは安直な捉え方ではないかなと。何か一つの対象について、とことんまで追究すること、そしてそのプロセスはどこにでも使える能力です。だからこそ、大学の研究者がスカラーと呼ばれる意味があると思うんです。ちなみに、スカラーというのは古代ギリシャでは「暇な人」という意味があったようです。社会の動きよりも少し余裕のある時間の流れのなかで、なかなかじっくり考えられないことを実践しつつ考える、そこに大学の意義があるのかなと思っています。

なので、この産学連携プロジェクトも短期的な成果という以上に、一緒に実践に参加させていただきつつ、そのなかから学問的・実践的知見を導きだすことに重点を置いています。

 

ー現代での大学の役割は、就職までのステップとして考えられていることがほとんどですが、90年代またはそれ以前の大学では、社会と接続されていないことがスタンダードだったのでしょうか?

接続されていないというより、そこをあまり気にしなくて良い時代だったと思います。学部生視点では就職先はたくさんあるし、企業側の視点でも余裕を持って採用することができたから成り立ったのだと思います。

 

ー産学連携プロジェクトについて具体的に教えていただけますか?

価値創造デザインプロジェクトという名称で、2017年度から始めています。このプロジェクトでは、一部でもいいから大学で学んでいることを肌感覚で分かってもらうためにやっています。だからといって、SNSや店舗運営のお手伝いをして、ただ単にモノを売ればいいのではなく、経営がどのように行われているのか、経営のポイントを考えながら実践すること、最終的にはその経験を言語化することを求めます。肌感覚で少しでも体験することで、講義で学ぶことや本の内容と現実が合致し、学ぶことの感覚が変わっていくのではないでしょうか。

このプロジェクトは、2022年は6社、2023年は7社と取り組んでいます。その企業さんが行っている事業を可能な限り全体的に見させてもらい、可能な範囲でご一緒させてもらっています。商品企画に携わることもあれば、流通的なことに携わることもありますし、取り組み内容は会社さんや年度によってさまざまですが、基本的に学生と企業さんの間ですり合わせをしながら内容や課題を固めていきます。この進め方をするには、必然的に経営者や意思決定者とコミュニケーションを取る必要があるので、大企業ではなく中小企業さんとの取り組みが多くなりました。結果的に経営陣やそこに近い方々とやり取りをすることで、企業さんの内部事業に左右されずにプロジェクトを進められています。また会社の状況を理由にプロジェクトが方向転換をせざるを得ない状況でも、学生が納得する形で説明をしてくれますし、同等の学びが得られるように異なる方法を考えることができています。仮に学生に説明できない形、例えば「社長がNGと言っているから」という理由でプロジェクトが頓挫すると、学生にとってはただの挫折にしかならず、社会に対してネガティブなマインドを持つことになってしまいます。リスク管理も含めてこの進め方を採用していますが、教授自身のリソースをもの凄く割くので、結果的に日本の大学の中でも珍しいプロジェクトになっています。

 

ーこれまで具体的にどのようなプロジェクトがあったのでしょうか?

一つは、商品企画です。学生が企画した製品が実際に販売されて完売しました。その製品は、企業さん側でアレンジした上で、現在は定番製品となっています。また製品を届けることにフォーカスして取り組んだプロジェクトもあり、そのプロジェクトでは、オンラインストアプラットフォームを活用し、ストアの構築と販売を行いました。また別の切り口では、組織構築やインナーブランディングに関するプロジェクトもあるので、取り組みは多種多様ですね。このように経営に関することでしたら、多様な切り口で取り組んでいることも特徴の一つですね。これも予め決められたテーマではなく、学生が連携先の経営者や担当者と話しながら、プロジェクト先の経営がめざすところやプロジェクト先と自分たち、さらにさまざまなステイクホルダーとの関係性について考える中から生まれているので、いい傾向だと考えています。多くの経営学部の産学連携プロジェクトでは、販売促進や商品企画など予めテーマが決められている印象なのですが、結果的にそれらと同じテーマで取り組むことになっても、経営の根っこの部分から課題を探ってテーマ設定をした方が学びとしては深いものになるかなと考えています。

 

ー私たちオールユアーズは昨年度からこのプロジェクトに参加しています。そのきっかけや今年度のプロジェクトについて教えてください。

2021年度のプロジェクトの様子

オールユアーズさんを知ったきっかけは、産学連携プロジェクトでお世話になっている木村石鹸さん(木村石鹸工業株式会社)がオールユアーズさんとのコラボTシャツを販売したことです。距離が縮まったのは、ゼミの卒業生がオールユアーズさんとのインターンシップに参加したことで、そこからはとんとん拍子で話が進んでいきましたね。

プロジェクトについては、学生と議論をしていますが、服を媒介にしてどのように関係性を広げていくのかが大きなテーマです。今年度は、実際に製品化するのかは一旦置いておいて、製品企画によって生じる、または変化するお客さんとの関係性について考えることに取り組みました。その過程として、インスタグラムのアカウントを立ち上げ、オールユアーズのお客様とコミュニケーションを取ったり、情報発信へのユーザーの反応から関係性を考察することをしています。特に気をつけてたのは言葉の使い方と選び方です。オールユアーズは、これまで学生が触れてきた情報発信とは異なる方法やコミュニケーションを取っているので、学生が考える表現とオールユアーズのスタンスをすり合わせるためにやりとりを重ねました。さまざまな企業さんが細部にまで気を配って言葉使いや文章を考えていることを理解してもらえたのではないでしょうか。

2022年度はインスタグラムアカウントを立ち上げ、運用

経営はいきている

ー今後のご自身のビジョンについて教えていただけますか?

これまでどおり、経営学の研究を続けていきます。もともとは経営学の理論やその歴史の研究を中心テーマにしてきましたが、ゼミでのプロジェクトを通じて、多様な要素が隣接したり、重なり合ったりして経営という事象が生じていることを、より強く感じるようになりました。その点を、より生きている、動いている状態として、つまり一つの生態として捉えることにエネルギーを注いでみたいと考えています。特に、買ってくれる人や働く人、必要な資源を提供してくれる人あるいは組織との関係性を、価値の循環という観点から明らかにしてみたいなと思っています。

 

ー最後に大学という組織の今後についてどのように考えていますか?

これまで通り、知が蓄積される場所であることは必要とされると思います。また、何かを考えて、それを実践する場、この2つの役割がそれぞれ働きながら動いていくと、大学という場がドライブしていくのではないでしょうか。このように動くと研究と教育がそれぞれ動きながらもうまく結びつく点は出てきましたし、高校卒業後から社会人までのステップだけでなく、社会人の学ぶ場としてこれまで以上に選択肢に入ってくると考えています。