「着た着て」セットアップが5年間支持され続けている理由を製品開発側から改めて考えてみる②
①の続きです。
①では「着た着て」セットアップのどこが評価されているのかをユーザーレビューやSNSの投稿から改めて認識してみましたが、②のこのページでは素材である「ポリエステル」に焦点をあて、もう少し掘り下げた上でわかりやすい言葉に置き換えてまとめています。
オールユアーズ製品に限らず、今後お洋服を買う上での参考にもなればいいなと思いますので、ほとんどテキストで読みにくいかもしれませんが、最後までお読みいただけるとうれしいです!
そもそもポリエステルって何やねん。
wikipediaによると、
ポリエステル(polyester。略号、PEs)は、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体である。合成繊維やペットボトルの材料として普及している。
日本化学繊維協会によると
“ポリエステル”と呼ばれる“化学せんい”は、石油の成分から“キシレン”という物質を取り出し、これに他の化学物質をくっつけ、さらにこれらの物質を何百万個とつなぎ合わせて“ポリエステルせんい”の原料である“ポリエチレンテレフタレート”と呼ばれる物質を作ります。この“ポリエチレンテレフタレート”のことを略して“PET(ペット)”といいます。これは、飲料容器のペットボトルと一緒です。すなわち、ペットボトルの原料と“ポリエステルせんい”の原料とは同じです。
と書かれていました。正直、僕もあまり意味が分かりませんが、
「ポリエステルは石油から化学的に合成されて作られたもの」
という理解が、シンプルな理解ではないでしょうか。「石油」由来であるということが、日常的に洋服に関わる「水分(水や汗)」を伴う課題を解決しているのではないかと思います。(「水と油」とはうまく言ったものだなぁ。)
ちなみに話しはそれますが、石油も天然資源なのでポリエステルも天然繊維なのではないか?という疑問を僕も感じたことがあります。
繊維業界では、石油などを化学的に合成させたものを「合成繊維」、自然界にそのまま存在する綿や毛を「天然繊維」と分類しているようです。ちなみに実はもっと細かくわかれているので、機会があれば解説したいと思います。
ここからは、着た着ての特長でもある5つの理由
「なぜ早く乾くのか」
「なぜシワになりにくいのか」
「なぜフォーマルに見えるのか」
「なぜ丈夫なのか、耐久性があるのか」
「なぜストレスを感じないのか?」
について、一つずつ掘り下げてみたいと思います。
なぜ早く乾くのか?
丸井織物さんからのコメントはこちら。
ポリエステルは吸湿性の低い素材(=疎水性繊維)なので、繊維の中に水分が入りづらい構造をしています。そのため、水や汗に生地が触れても、すぐに拡散されて蒸発し、洗濯脱水後の水分含有率が低く、すぐに乾きます。
対して綿は、親水性繊維と呼ばれる、湿気に対する高い親和性と濡れたときに膨潤する性質があります。また、公定水分率は【綿 - 8.5%】【ポリエステル - 0.4%】と、綿はポリエステルの約 21 倍水分を吸収します。(※公定水分率とは、温度 20℃湿度 65%の環境における繊維内の水分率)だから、ポリエステルは乾きが早いです。
要するに【ポリエステルはほとんど水を吸わないから早く乾く】ということです。
対して綿が乾きにくいのは、ポリエステルより約21倍の水分を吸収するからです。バスタオルなどが乾きにくいのはこれが要因ですね。ポリエステル製の機能下着を着ていて発汗時に不快に感じるのはポリエステルが水を吸わないからでしょう。
オールユアーズの着た着てTシャツに綿を含ませているのはその不快感を軽減するためです。(ちなみに、ポリエステルの糸の形状の工夫や生地を親水化する加工で、吸水を促しているものも存在します。)
もう一つの理由として、「着た着て」セットアップの生地の表面には撥水加工が施されています。物理的に水を弾き濡れにくい状態になっているため、早く乾きます。
(このように洋服の表面についた水分はコロコロと転がります)
ちなみに、「着た着てセットアップ」は洗濯後脱水し、室内の自然乾燥(扇風機などで風を当てなくても)で3時間以内で完全に乾きます。
なぜシワになりにくいのか?
丸井織物さんからのコメントはこちら。
ポリエステルの糸は、仮撚りや捲縮によるクリンプ(バネ構造)の影響で、元に戻ろうとする性質があります。また、ポリエステルは熱可塑性繊維のため、加工時の熱(150℃以上)により、組織が固定されるので、シワになりにくく、畳んでもすぐに回復します。
シワになりやすい素材として代表的なのが、綿、麻、レーヨン、キュプラですが、それらと比べて【反発性があり、元に戻ろうとする力が強い】ことがシワになりにくい最大の理由です。
また製造加工時の熱により形状記憶のような状態になるので、シワになりにくく、着続けても買ったばかりに近い状態が長きます。
もう一つの理由として、「着た着て」セットアップの生地は、他社のポリエステル製のセットアップ(ユニクロの感動ジャケットなど)に比べて、しっかりした厚めの生地を使用しています。
これは後に説明する耐久性にも通じますが、生地を厚くすることによって元の状態に戻ろうとする力が強くなるため、折り目が付きにくくなっています。(コピー用紙と画用紙を比べると、画用紙の方が折り目が付きにくいのと同じです)
なぜフォーマルに見えるのか?
フォーマルといえば(ウール素材の)スーツを想像すると思います。フォーマルに見せるためにウール素材の見た目に近づける工夫をしています。その作り方についての、丸井織物さんからのコメントはこちら。
濃い色と薄い色2種類に染まるポリエステル原料をベストな分量で配合しているからです。さらに、経糸と緯糸は異なるメーカーの原料を使用して、色差による色の深みを出しています。
経糸:PE+カチオン(A) / 緯糸:PE+カチオン(B)
ウール生地の表面は、例えばグレーでもこの画像のように濃い色と淡い色が混じり合った色目をしています。
「着た着てセットアップ」の生地は、異なる複数の種類のポリエステルを配合し、ウールのフォーマルな見た目になるように仕上げています。
こちらは新色アスファルトの生地を顕微鏡で拡大したものです。近い色がまじりあっているのがご覧いただけると思います。(左:20倍、右:40倍)
だから、フォーマルな見た目を保ちながら、取り扱いしやすい製品に仕上がっているのです。
なぜ丈夫なのか、耐久性があるのか?
丸井織物さんからのコメントはこちら。
軽さ比重が綿より小さく、同じ太さの糸 1 本あたりの強度が高いからです。
①軽さ比重
・ポリエステル:1.38 (1.38g/mm3)
・綿:1.54 (1.54/mm3) (※水を吸いやすいので、さらに重くなる)
※比重とは、水の重さ 1.0 (1g/mm3)と比較した物質の重量比。
②強度
・PE:4.3~6g/d
・綿:3~4.9g/d
これに加え、「なぜ早く乾くのか?」で記載した公定水分率。
③水分率
・ポリエステル:0.4
・綿:7.0
この3つの要素が重量と耐久性に関わるのですが、一番の理由は【しっかりした厚めの生地を使用】していることだと思います。どんな服でも生地を分厚く(重く)するほど丈夫になり、耐久性はアップします。
「着た着てセットアップ」は丈夫なのに軽いのが特徴です。
・綿(や他の天然繊維)に比べて比重が軽い
・繊維の中の水分量が少ないから常に乾いている
これらの繊維の特長を生かしているため、他社よりも丈夫な生地を使用し耐久性を上げても重さを感じることなく、長時間着ていても疲れない状態を実現出来ているのではないかと思います。
【追加】なぜ洗濯しても色褪せないのか?
「着た着てセットアップ」は、洗濯を繰り返しても色褪せしないのも特長の一つです。
左が一般的な綿100%生地、右がオールユアーズ製品に使用している生地です。洗濯漂白剤の原液をたらして実験しています。
色褪せない理由について、丸井織物さんからのコメントはこちら。
ポリエステルで使用する、分散染料(分子間引力=ファンデルワールス力)とカチオン染料(イオン結合)は、一時的な塩素に反応しにくく、反応速度も遅いです。対して、綿を染める反応染料や直接染料といった共有結合は、塩素に反応しやすい(置換し易い)分子構造です。よって、繊維の性質によるものではなく、染料の性質上、ポリエステルは塩素による色落ちや脱色がしにくいです。
綿や麻などに使用する染料は塩素漂白剤に反応しやすく、ポリエステルに使用する染料は塩素漂白剤に反応しにくい。のが理由です。ただし、僕の経験上、これはきっちりとした管理の下で染められていることが条件になります。丸井織物さんの技術力と厳しい管理によって実現できているものだと理解しています。
なぜストレスを感じないのか?
・着ているときの服の重さや窮屈さによってストレスを感じる
・洗濯に関わる乾きにくさやシワによる手間によって感じる
など、ストレスの感じ方は人それぞれだと思います。
「着た着てセットアップ」は、先にお話しした複数の特長が製品に併存することで、多くの方が感じるさまざまなストレスを解消出来ているのだと思います。