新型コロナ訪問診療チーム「KISA2隊」が考える、 医療界のSWITCH STANDARD

新型コロナ訪問診療チーム「KISA2隊」が考える、 医療界のSWITCH STANDARD

「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもとで始まった、オールユアーズのスイッチスタンダードプロジェクト。2020年にこのプロジェクトを発表してから2年。現在では、マスクの着用やリモートワークが、世間の「あたりまえ」になりましたが、わたしたちオールユアーズもアパレル業界の「あたりまえ」をアップデートすべく、地道に活動を続けてきました。

(オールユアーズのスイッチスタンダードプロジェクトについては、こちらのnoteをご覧ください。)

そして、各業界で「あたりまえを変える」ために奮闘する方々と交流する中で、KISA2隊の守上佳樹先生と出会いました。KISA2隊は、新型コロナウイルスの流行をきっかけにSWITCH STANDARDに挑戦している組織です。これまでのスタンダードであった患者が診療所を訪れるという「往診型医療」から、医療従事者が患者の家に赴く「訪問型医療」へのスイッチを通して、コロナウイルス感染者に適切な自宅療養支援を行っています。

コロナ禍以前から訪問医療に取り組んでいた守上先生は「真摯に取り組み続けていたら、少しずつ仲間が増えていったんです。」と話してくれました。今回は、訪問型医療へのSWITCH STANDARDに迫ります。

守上 佳樹(もりかみ よしき)氏

2017年京都市にて24時間365日訪問医療を行う「医療法人双樹会よしき往診クリニック」を立ち上げる。コロナウイルスの流行に伴い、訪問医療の必要性を強く感じ2021年2月に新型コロナウイルス感染者へ適切な自宅療養支援を行う「KISA2隊」を発足。現在は、自身も医師として診療を行いながら、KISA2隊を通して訪問医療の普及に努めている。

クリニックのSWITCH STANDARD

「単発往診型」から「継続訪問型」へ

ーまずは、訪問医療が必要と感じた理由について教えてください。

守上:コロナウイルスが流行する2020年以前から、訪問医療中心のクリニックを営んでいました。このクリニックを開業した理由は、ご高齢の方が診療を受ける負担の大きさが理由です。私たちのような比較的若い人には、なかなか理解できないと思いますが、高齢者は病院に通うことがとてもしんどく感じるんです。また通院できても、慣れない環境や通院の疲れから、診察内容や内服薬についてなどの重要な情報が頭に入っていない様子も見受けられました。この状況を体験して、こちらが家まで行って診療した方が良いのではないかと思い、クリニックを開業しました。
医師が自宅まで伺えば、患者さんの負担も少なく、慣れた環境でリラックスできますよね。実際に訪問してみると、私の説明に対してこれまでよりも理解してくれたり、内容を覚えてくれることが増えました。
今まではクリニックに来てもらうことがあたり前でしたが、僕たちが患者さんの家に行く。そこが 『SWITCH STANDARD』に通じる部分かもしれないですね。

 

ーコロナ禍で、訪問医療の件数は増えていますか。

守上:はい。現在は、訪問医療のニーズがとても高くなっています。訪問医療の需要の高さは、私たち医療従事者よりも、一般の方々のほうが強く感じているのではないでしょうか。病院に行きたくても、予約が取れずに検査が受けられなかったり、病床が足りずに入院ができない、という問題がありますよね。
そんな中、KISA2隊の京都支部は24時間体制で対応しています。24時間訪問医療を通して、通院と変わらない診察や投薬を行います。自宅でも病院でもベッドは一緒ですから、診療環境は問題ありません。採血やエコー検査も可能で、病院とまったく同じ、コロナに対する薬剤や、酸素を自宅で投与します。病院が逼迫している中で、私たちが患者の自宅へ足を運ぶメリットは大いにありますし、件数も増えています。

 

ーKISA2隊発足当初の訪問医療への見解と、当時の心境について教えてください。

守上:KISA2隊を立ち上げたのは、2021年2月です。立ち上げ当初に一番多かった質問は「なんでそんなことをやるのだ?君は?」というものでした。「訪問する医療従事者側の感染のリスクが高まるのでは?」、「そもそも、病院での通常診察を制限してまでやることなのか?」などですね。当時、コロナウイルスへの訪問医療は誰もやっていないことでしたから。周囲の反応やこれまでのスタンダードを考えると、とても困難なミッションになることは目に見えていました。それでも真摯に取り組み続けていたら、少しずつ仲間が増えていったんです。取り組みへの信頼度が上がるにつれて、行政の協力も得られるようになりました。
発足当初一番多かった「なぜそんなことをやるのだ?君は?」という後ろ向きな質問は、チーム力が高まった今では「どうやってやってるのだ??君達は???」という前向きな質問をされることが多くなっています。

今までと変わらない活動をしていたら、周りの状況も変化していった

守上:私は元々24時間体制の訪問診療を行なっていたので、その訪問先の中にコロナウイルス患者の方々への往診も追加された。それだけのことなんですよ。医療制度や法律を大きく変えなければできない動きをしていたわけではない。やっていることはコロナ前から何も変わっていないですね。むしろ、コロナ禍に入ってから、訪問医療が注目された。周囲が 『SWICH STANDARD』の意識を持ちつつあるという感覚です。

目標はただ一つ、「人の命を救うこと」

KISA2隊の組織化と現在の活動

ー現在の組織体制について教えてください。

守上:当初は、すでにKISA2隊に賛同してくれていた医師と一緒に活動していました。非営利型一般社団法人として組織が大きくなり、現在は10都道府県にKISA2隊が広まっています。往診回数で言うと、全体で1万回以上、参加している医師は50人を超えています。さらにコメディカルスタッフも含めると「自立的に立ち上がった組織としては戦後最大規模の若手医師群を中心とした超法人医療チーム」とも言われるほどの人数になります。(本当かどうかはわかりません笑)。医師としては若い30代から40代のメンバーが約9割で、みんな使命感に燃えていますよ。

 

ーKISA2隊はどのようにマネタイズしているのでしょうか。

守上:医療の目的は人命救助です。だから、マネタイズをしようというモチベーションではあまり動いていないんですよね。株式会社であれば、利益を優先するべきかもしれません。しかし医療法人やクリニックは、人命救助を唯一の目標としている。僕は、そう思って活動しています。人命救助ができるのであれば、利益が見込めなくとも全く問題ない。その一心で動いていたら、色々な人や財団が支援をしてくれました。その支援によって、経済的課題は上手く解決できています。

*KISA2隊は、福祉・公益事業や国際事業を行う公益財団法人日本財団、信頼資本財団、京都地域創造基金等から活動資金の一部支援を受けている。

同志とともに、遠くまで

守上:アフリカの古いことわざで「早く行きたいなら1人で行け、遠くに行きたいならみんなで行け」というものがあります。まさにその通りだと思っています。大人数で取り組むことによって、国民全体の問題意識に繋がる。コロナ禍における医療問題は、国の問題ですから。ことわざで言うところのかなり遠い場所に行かないといけないんです。私1人だけの力では到底無理だと、最初から分かっていました。あくまでも、みんなで取り組むことが重要なんです。なので肩書きや立場は気にせず、全体でチームをビルドアップしていくというつもりで活動しています。人命救助という目的において、全員が同じ意識を持っていることが大切なんです。
コロナ禍が長引き、患者数が増える度に、私たちのニーズは高まり組織は大きくなっています。決して喜ばしいことではないですが、そのような大変なときこそ、明るく元気に振る舞うことを意識しています。その方が僕たちの士気が上がるんですよ。また、そのようなポジティブなイメージは周囲の方々にも伝わっていると思います。

所属は異なるが、志は同じ

オールユアーズとのユニフォームプロジェクトについて

2022年にオールユアーズ代表 原にKISA2隊のユニフォーム製作の相談がありプロジェクト化。病院のユニフォームといえば、白衣や青色のユニフォームが連想されます。しかし、このユニフォームプロジェクトでは、紆余曲折を経て、なんと古着を再活用したユニフォームの製作を行いました。

ー医療ユニフォーム業界ではなく、アパレル業界のオールユアーズとユニフォームを作りたいと思ったのはなぜですか。

守上:活動中の服って実はかなり大切なんですよ。まず清潔感があること。さらにシワにならないなどの機能面も重要です。医療用ユニフォームはそのような機能面は完璧なのですが、私は見た目のかっこ良さにもこだわりたかったんです。そんなときに共通の知り合いにオールユアーズという機能性にも見た目にも拘れそうな、革命的なブランドを紹介してもらいました。

左:守上佳樹先生、右:オールユアーズ代表 原

原:欲しいものがないと相談を受けましたが、守上先生のインプレッションに合うものがないのだと思いましたね。医療業界の理想とするユニフォームの形と、守上先生の理想に乖離がありました。なので、探しても見つかるはずがありません。何度かお話をしているうちに守上先生やKISA2隊には古着から作る形がいいのではないかと提案しました

 

ーユニフォームの仕様について教えてください

守上:イメージはメディカルマルチフォームです。(ユニフォームを見せながら)この2種類のデザインだけでもすでにマルチですよね。もちろんボディの生産国や素材も異なるものばかり。全て異なるボディに、KISA2隊のロゴを入れています。
ユニフォームは全てバラバラですが、KISA2隊に所属する医師は、自分が所属したり営んでいるクリニックがあるバラバラの集団なんです。なので、所属は異なるけれども志は同じであるという考え方にもすごくフィットしていて、気に入っています。


原:全てバラバラのものでも並んだ時に不思議とユニフォームに見える統一感のあるボディを集めました。またユニフォームには、オールユアーズの一部製品にも行なっている抗菌・抗ウイルス加工を岡山県の西江デニム株式会社で実施しています。古着のため、さまざまなサイズを用意できたり、生産終了という概念がないなど、ユニフォームとして継続的に運用するための生産的なメリットも多いんです。

コロナ禍が終わっても医療は続く

KISA2隊のこれから

ー今後の活動についてはどう考えていますか。

守上:現在のコロナ禍での動きというのは、再現性も持続性もないんです。今はコロナウイルスに特化して取り組んでいますが、コロナ禍が終わったとしても、医療はずっと続いていきます。これからも人の命に寄り添っていく。KISA2隊もユニフォームのプロジェクトも、この一瞬だけではなく、エターナルな動きにしていきたいと思っています。

自分の胸に向けた「KISA2ピース」

守上:右手を心臓の上あたりで、指の腹を自分の方に向けてするピースサインです。今はまだ、表立ってピースできるような状況ではないですが、明るい気持ちを失わないようにしよう、自分の胸にはしっかりピースを向けようというメッセージを込めています。KISA2隊の「2」の意味と共に、「KISA2ピース」と呼んでいます。

僕たちKISA2隊は、これからも明るい未来に向けて活動していきます。
みなさんも決して希望を忘れず、がんばっていきましょう。