「牛の排泄物が資源に」環境大善のSWITCH STANDARD

「牛の排泄物が資源に」環境大善のSWITCH STANDARD

これまでオールユアーズは、「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもと、アパレル業界の「あたりまえ」を更新するSWITCH STANDARDを行ってきました。
きっと、私たち以外にも様々な業界で「あたりまえ」にチャレンジする方々がいるはず。

 今回は、牛の尿から作られた天然成分100%のバイオ消臭液「きえ〜る」を販売する環境大善株式会社の代表取締役社長・窪之内誠さんに、お笑い芸人かつオールユアーズ製品愛用者の鈴木ジェロニモさんとオールユアーズの原がインタビューを行いました。

 「公害の原因だった牛の尿が資源になる」と話して下さった窪之内さん。マイナスなイメージがあったものが未来に向けてどのように変化しているのか、お話を伺いました。

窪之内 誠氏(くぼのうち まこと)

北海道北見市出身、1976年生まれ。大学卒業より18年間ICT機器販売、販売責任者を経て、2016年入社。代表取締役専務を経て2019年2月より現職。
北海道で処理が課題となっている牛の尿を微生物で分解し、得られる液体を消臭液や土壌改良材として利用する「アップサイクル型循環システム」を構築。PR及び広報をメインに担当。土、水、空気研究所所長を兼任。
2018年からアートディレクター鎌田順也氏(KD主宰)とリブランディングに着手。2021年9月に商品パッケージのリニューアルを実施。
そのパッケージがニューヨークADC賞(The ADC 101st Annual Awards)を受賞した他、2022年10月「ブランディング・CI/VI」部門で2022年度グッドデザイン賞を受賞。
主な受賞歴として、「第8回ディスカバー農山漁村(むら)の宝」にて、特別賞(ナイスネーミング賞)、「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2022-2023」部門賞(ローカルヒーロー賞)を受賞。

牛の尿から生まれた消臭液

公害の原因が無臭になる

ーまず、環境大善株式会社はどのような会社なのか教えてください。

窪之内:環境大善株式会社は私の父が創業した会社で、私は2代目にあたります。牛の尿を微生物の力で分解することで生まれる液体を、消臭液や土壌改良材として販売するという事業を行っています。私の父はもともとホームセンターに勤務していたのですが、あるとき酪農家さんがボトルに入った茶色い液体をお店に持ってきて「これを販売することはできないか?」と相談されたそうです。その液体は、牛の尿を微生物分解してできたものでした。

私たちの会社がある北海道の北見市は酪農が盛んなのですが、牛の糞尿による悪臭、尿が土を通じて川に流れることによる水質汚染が発生するなど、公害問題になっていました。行政や農協と酪農家が協力しながら適切な糞尿処理が進められていましたが、酪農家にも処理の費用負担がありました。このような背景から、その酪農家さんは処理済みの液体を販売できないかと相談に訪れたようです。その液体を嗅いでみると、全くニオイがしなかったそうです。

ー無臭だったんですか?

窪之内:はい、無臭です。牛の尿が無臭になるというのはすごいことですよね。そこで私の父は「これは消臭液として使えるのではないか?」と、閃いたそうなんです。試しに使ってみると確かに消臭効果は絶大でした。そして、安全性試験をクリアした上で誕生したのがバイオ消臭液“きえ〜る”です。



ー「きえ〜る」について詳しく教えてくださいますか?

窪之内:“きえ〜る”は天然成分100%の、無臭のバイオ消臭液です。酪農家さんから持ち込まれた段階では有色の液体だったのですが、衣服などの消臭液としても使用できるよう無色透明にする方法を開発しました。“きえ〜る”は、人が不快だと感じるニオイ(有機物の腐敗臭やアンモニア臭、イソ吉草酸等)だけ消臭すると言われています。 例えば、花にきえ〜るをかけても、花から発生するいい香りは消えません。その理由ついては研究機関と連携して研究中で、完全には解明されていないのですが「微生物の活動を抑えることで消臭している」、つまり“きえ〜る”は、微生物の働きによって発生する不快なニオイを消臭すると考えています。

ーお話を聞いていて、私もきえ〜るが欲しくなってきました。

窪之内:そう言っていただいてありがたいです。きえ〜るは元々アイデア商品のようなパッケージで主に年配層に好評をいただいていたのですが、そのパッケージだと若年層に商品の良さが伝わらないのではないか?、という懸念が生まれてきたんですね。そこでリブランディングをして、「牛の尿は汚い」というイメージを払拭しようと試みました。かつては牛の尿から作られていることを隠すような売り方をすることもありましたが、近年は発酵やSDGsといったキーワードが世間に浸透してきていることが追い風となり、ここ1年くらいで受け取られ方が変わってきている印象があります。私たちが続けてきた活動と時代がちょうどいい塩梅で交わってきているのではないでしょうか。

牛の尿で植物が育つ

ーもうひとつの主力製品である「土いきかえる」について教えてください。

窪之内:“土いきかえる”は、きえ〜ると同じく牛の尿から生まれた完熟液体たい肥です。液体を土に散布すると、土壌中の栄養素を植物が吸収しやすい形へ変え土壌の状態を改善したり、植物に作用することで生長を促進させる効果があります。この“土いきかえる”ですが、実は有色液のきえ〜ると成分は全く一緒なんです。どちらも無臭で、無色・有色どちらもあるのがきえ〜る、有色なのが“土いきかえる”です。

ご存知の方は少ないと思いますが、日本国内の畑に使用する肥料の90%が輸入です。輸入に頼りきっていると、円相場によってコストが変動したり、国際情勢の影響を受けることになります。将来的に使用されている肥料の90%のうち1%でもいいので、国内製に変えることができれば、それは大きな一歩になると思っています。

会社として、きえ〜るは大切な製品ですが、“土いきかえる”の展開にも力を入れていきます。人が生きることと密接に関わる食の出発点である農業や畜産、酪農という産業に貢献できると嬉しいですよね。

 

土いきかえるを使用した北海道斜里町の畑

公害の原因を資源化するために

尿を資源と再定義するための意識改革

ー「きえ〜る」も「土いきかえる」も牛の尿から作られているんですよね。

窪之内:そうです。研究所や大学と協力しながら牛の尿の用途開発をして、石油や綿花と同じように牛の尿を原料や資源として再定義することが大きな目標です。牛は1頭あたり1日で10〜20リットルくらいの尿を排泄します。日本全国には、乳牛だけでも約135万頭いるのですが、その乳牛たちの尿の排泄量を合計すると1日あたり、25メートルプール40杯分相当になります。その膨大な量の排泄物が公害の原因になるのか資源になるのかによって、私たちの暮らしは大きく変わると思っています。


ー牛の尿を資源として再定義するために、どんな取り組みをされていますか?

窪之内:牛の尿による公害問題を解決するためには、私たちだけが活動するのではなく、酪農家さんを含め、牛の尿を資源と捉える意識改革が必要だと考えています。そのため、私たちは酪農家さんから牛の尿を買い取っています。お金のやり取りが発生することで、酪農家さんには、商品を渡しているという責任感が生まれると思うんです。「牛の尿はごみではなく資源なんだ」と実感できますよね。このやりとりを適当に済ませてしまうと、牛の尿による公害問題に本気で取り組めないと思ったんです。私たちも酪農家さんも牛の尿に対して、プロとして向き合っていこうという意識を共有しました。



ー環境大善さんだけでなく、周りも巻き込んで意識改革をされているのですね。

窪之内:牛の尿を仕入れて、発酵処理して、販売するというニッチなことをやる上で、マーケットも同時に作っていかなければいけないんですよね。たくさんの人を巻き込むことによって、より多くの人の役に立ち、さらに利益にも繋がります。

2022年11月1日には地元のJAオホーツクあばしりと包括的業務提携を結びました。。酪農家さんと私たちの間にJAさんが入っていただくことで、より良いサイクルが生まれてきました。その連携を含めた輪を私たちはアップサイクル型循環システムと呼んでいます。

公害の元が公害を制す「アップサイクル型循環システム」

その「アップサイクル型循環システム」について詳しく教えていただけますか?

窪之内:まずは一次処理プラントという場所で、酪農家さん自身に牛の尿のニオイがなくなる段階まで処理をしていただきます。そして我々独自の仕入れ基準をクリアした段階で仕入れるのですが、牛の尿を運んでくれる業者なんて存在しなかったので、一から交渉して、無臭処理済みの牛の尿を運んでくれる運搬業者さんに入っていただきました。

会社に運ばれてきた処理済みの牛の尿を独自技術で発酵の最終処理し、消臭液や土壌改良材として製造しています。ラベル貼りの工程は地元の社会福祉法人等へ委託しているんです。

研究については北見工業大学と共同研究講座を開設し、液の用途開発などに取り組んでいます。完成した製品をユーザーに使っていただくことで、土・水・空気の環境が改善され、それが農場を通して牛に戻っていくサイクルが生まれるんです。

この循環は、酪農家から牛の尿を購入し地域経済を循環させるだけでなく、製品のユーザーも自動的に環境危機の解決へ加わることになります。

創業者である父がよく「公害のもとが公害を制す」と口にしていました。このアップサイクル型循環システムの輪を広げていくことで、公害の原因だった牛の尿が多くの人の役に立つものへと変わっていき、さらに多くの人の利益に繋がるようになると考えています。

 

環境大善とオールユアーズの関わりとは

「着た着て」はワークウェアにぴったり

ーオールユアーズと出会ったきっかけについて教えてください。

窪之内:北海道網走市で開催されているイベントにオールユアーズさんが出店されていたことがきっかけです。初めて「着た着て」ジャケットに袖を通しました。そこですごくいいなと思って、後日「着た着て」セットアップのダークグリーンを購入しました。

その後、仕事を中心に「着た着て」セットアップを着用していたのですが、一つ印象的なエピソードがあるんです。東南アジアへの出張の際に飛行機が悪天候の為目的地に辿り着けず、途中にある空港に緊急着陸したんです。天候が回復するまで機内で長時間座っていないといけなかったのですが、オールユアーズのセットアップは長時間座っていてもストレスなく、ほとんどシワがありませんでした。一般的なスーツの場合は、膝裏にシワが入ってとてもみすぼらしく見えるんですよ。でもオールユアーズのセットアップは大丈夫。また、40℃前後になるタイやベトナムでは汗をかくけど、すぐ乾くしシワにもならない。しかも、出張中に洗濯もできるし、3時間で乾く。ジャージ素材に近いので着心地もよくて、歩きでの移動が多くなる出張では助かりました。これはワークウェアにぴったりだと思い、「着た着て」セットアップを会社のユニフォームに採用したいと思ったんです。

新しいユニフォームなら、どこへでも行ける

ー実際に制作したユニフォームのこだわりや印象的なエピソードはありますか?

窪之内:始めは「着た着て」のセットアップの型をそのままユニフォームとして採用したいと思っていました。そこで原さんに相談すると「作業する上でラペルの部分は不要になるのではないか」と提案していただきました。さらに現場の社員が作業しやすいように、ポケットの位置や大きさ、生地の柔らかさ、ワッペンの位置など、オーダーメイドのように一緒に考えてくれたんです。そうして完成したユニフォームは、私たちの思いが採用されたデザインでもあるため、スタッフみんなのお気に入りです。またお恥ずかしい話なのですが、弊社には更衣室がないので、スタッフがこれを着て出社して、帰りもそのまま買い物やお子さんのお迎えに行けるといいな、という思いで作りました。実際に社員たちはこのユニフォームを着て出勤をしています。また、出勤の際に洋服を選んだり、出勤用の洋服を購入する必要がなくなったことも好評です。仕事の面では、社員全員が同じデザインのユニフォームを着ることによって士気が上がり、作業や業務が捗るようになったという声もあります。

弊社には様々な体型の社員がいますがオールユアーズはサイズレンジが広いためここも助かったポイントです。作業をしやすいように設計されたユニフォームですが、デザインはすごくオーセンティックなので、このユニフォームを着て、調印式や式典など一般的に格式が高いと言われる会にも出席しています。このユニフォームを着てお会いした方々からもお褒めの言葉をいただくことが多く、オールユアーズにユニフォームを作ってもらえて良いことしかないですね。

「アップサイクル型循環システム」を通して、地球の健康を見つめる

ー今後の展望について教えてください。

窪之内:一番は、アップサイクル型循環システムの輪を広げていくことです。今は北海道の道東の一部で取り組んでいる規模感ですが、日本全国、そして世界に私たちの活動が広まればいいなと思っています。それは私たちが目立ちたいからではなく、私たちの取り組みが広まることによって、酪農家さんたちが経済問題や公害問題に対してリソースを割くことが減り、より生産に集中ができるからです。人間の暮らしに欠かせない食という領域に従事されている酪農家さんたちが安心して、生産に取り組めれば消費者である私たちの手元に届くモノもよりよいモノになり、生活が豊かになると思っています。

また、牛の尿の研究についても進めていきます。国内外問わず、日々様々な分野の研究が進められていますが、「牛の尿についての論文は少ない」と共同研究している大学の方々から伺いました。牛の尿の資源化や活用だけでなく、学術的な面でもパイオニアを目指そうという思いで取り組んでいます。世界には乳牛と肉牛を合わせておよそ10億頭の牛がいると言われています。その牛たちから排泄される尿が全て資源になるのであれば、世界は間違いなく良い方向に変わると思っています。“地球の健康を見つめる”というコーポレートスローガンと共に、私たちはこれからも、牛の尿にこだわっていきたいです。

ライター:鈴木ジェロニモ

プロダクション人力舎所属のお笑い芸人。芸歴5年目。1994年4月27日栃木県さくら市生まれの28歳。R-1グランプリ2022準々決勝進出。短歌50首連作『ヨライヨライ』で第4回笹井宏之賞最終選考候補作。短歌30首連作『ものすごいマンション』で第65回短歌研究新人賞最終選考通過作。『自由律俳句を鑑賞する夜2』にて文筆家のせきしろ氏、ピース又吉直樹氏と共演。事務所ライブ『バカ爆走!』を始め各種ライブに出演。

協力・写真提供:環境大善株式会社
企画:オールユアーズ 清野